日本型修正現代貨幣理論(JMMT)の導入に向けて。

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 先日、MMT(現代貨幣理論)の勉強会へ参加した。参加して思ったことは、MMTに対して大きく誤解していたということだ。MMTに対しては、政府倒産がないことを前提に、自国通貨を有する国は、無限に国債を刷り続けることができるという考えではないかといわれてきた。しかし、これは、誤った見方であった。国債発行に関するMMTの立場は、プライマリーバランス(財政赤字を無くすこと)を視野に入れながら、国債発行の量を調整するのではなく、インフレ目標(具体的には、2~4%程度を目標とする)をターゲットに、国債発行を行うべきというものであった。
 しかし、インフレ率2~4%程度を目標に国債発行を無制限に続けると、貨幣の需給バランスを大きく崩し、物価高騰による悪性インフレが家計を直撃する可能性を懸念してしまう。これに対して、MMTは、20年以上デフレが続いている日本で、インフレを心配しすぎること自体がナンセンスだという。この立場は、政策スタンスとしては、一理ある。
 もっとも、インフレには、2つのタイプある。一つは、経済成長に伴い物価が自然上昇する良性のタイプである。もう一つは、通貨に対する信任が喪失して、通貨価値が暴落する悪性のタイプである。
 悪性インフレを気にするあまり、良性のインフレまで抑え込んでいるとしたら、本末転倒なのは間違いないだろう。
 主流派経済学は、プライマリーバランス(財政均衡)を維持し、中央銀行による金利調整等の金融政策によるインフレ調整を行うことで、経済の安定的成長がもたらされると考えている。この考えは、確かに、少なくともデフレ経済ではない経済状況では妥当する。しかし、長期的デフレ状態において、主流派経済学の考え方が、経済の安定的成長をもたらすか、日本の現状を見れば、疑わしいという他ない。
 MMTの考え方は、長期的デフレ下において、経済成長を再度もたらす可能性が感じられる。しかし、MMTの考え方は、貨幣を、政府が国民の納税の為に供給するものと捉えることから、貨幣に対する信任ということを主流派経済学ほど重視していないところに問題が潜んでいるような気がする。
 また、MMTは、政府の負債は、民間の資産というが、これは、一時点をストック的に捉えているいいかたといえる。問題は、政府を維持していく上で最低限必要な国債を民間に持続的に引き受けてもらえる状況を継続できるかにあるはずである。その意味で、貨幣価値に対する信頼、通貨制度及び政府の財政政策に対する信任は、日本という国が存続していく上で不可欠の要素である。お金を極端に刷れば刷るほど、物価が高騰し、悪性インフレが家計を直撃することになるということは、人々が直感的に理解できるはずである。「政府が破綻することはない」というMMTの主張は正しいが、国内外からの通貨に対する信任を喪失する結果となれば、日本という国の持続的成長は危険にさらされる。
 以上のことから、重要なことは、貨幣に対する信頼、通貨制度及び財政政策に対する信任を維持することを前提とした考えへMMTを修正することである。
 結局、主流派経済学の考えに基づく金融政策中心の経済刺激策が断続的に続けられている中で、名目金利が、経済成長率を大きく下回っている状況が長期間継続する状況は、貨幣に対する信頼、通貨制度及び財政政策に対する信任が維持できているといえ、MMTの考えに基づく財政政策を実施する余地があるということである。
 そして、貨幣に対する信頼、通貨制度及び財政政策に対する信任を維持する上で重要なことは、政府が負債で調達した資金を、将来の日本社会の経済的社会的発展に活用して、債務の償還に疑義を抱かれないよう無駄に使わないことである。企業が株式を発行して資金調達する場合、多くの場合、エクイティ・ストーリーという資金計画が開示される。政府においても、MMTに基づく財政政策を行う場合、ボンド・ストーリーというような国の将来像を内外に示す必要がある。
 したがって、MMTに基づく財政政策を成功させるためには、資金使途を明確化して公表し、支出金額以上の経済効果が将来に見込めることを内外に納得させられる形で実施する日本型修正現代貨幣理論にもとづく財政政策だる必要があると考える。
 主流派経済学とMMTとの間の議論を眺めると、結局、どちらかが一貫して採用されるべき経済政策というのではなく、置かれている経済状況の下、政策決定者が、いずれの考え方を基本とした経済政策を実施するかという政策選択の問題ではないかと思える。

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